時給が低い高校生に、大学生の僕が仕事を教えてもらった(ふつうエッセイ #476)

人事採用の仕事をしていたこともあり、スーパーなどに貼られているパートタイマーの募集要綱に目がいってしまう。特に最低賃金が改定されたタイミングなど、「あ、最低賃金改定が反映されてないな、法令違反だぞ」みたいな意地の悪い見方をしてしまう。

僕がかなり気になっていたのは、少なくないアルバイトで、高校生の時給が低く設定されていることだ。一般的に高校生は社会経験がないから、接遇などのマナーをいちから教育する手間がかかるといわれている。でも、それは大学生だって似たようなケースが多いわけで、(残業できない等の)制約はあるものの、同一の労働で時給が低く設定されていることは個人的に疑問である。

まあ、そういうことをいうと、社会人経験のない「大学卒」「大学院卒」で、初任給の差を設けていることまで突っ込まなくちゃいけないので、それはそれとして傍に置かせてもらう。

僕が思い出すのは、大学生のとき。

市営プールの監視員のアルバイトをしていたときのことだ。夏季休業期間に、市民に向けて屋外プールが開放される。市営プールにしては、プールが何面かあって、しかも「流れるプール」なんかもあり、なかなか充実していたプールだったといえる。

6〜8月の期間限定。当時、時給は1,000円だった。結果的に、ひと夏で40万円近く稼ぐことができたから、割の良いバイトだったといえる。(その代償として、真っ黒に日焼けしてしまったが)

とはいえ初めてだったので、前の夏にアルバイトをしていたメンバーが教育係になってくれていた。その中に、何人かの高校生がいた。その何人かがテキパキと指導してくれたおかげで、プールは円滑に回っていった。

監視員のアルバイトをしていたメンバーで、食事をする機会もあった。結構、みんな仲が良かったのだ。そんな折、教育係をしてくれていた高校生の時給が、大学生の僕よりも低く設定されているという話を聞いて、率直に驚いてしまった。確か、1割程度低かったと思う。

もちろん、そんな彼らも、僕と同じくらい働いていたら、32万円も稼ぐことはできた。

だけど、彼らが大学生であればもらえたであろう8万円は、どこに消えてしまうのだろうか。

そこまでねちっと苦情を申し立てていた人はいなかったけれど、僕は彼らが不憫に思えた。僕よりもずっと仕事ができる彼らは、むしろ僕よりも高い賃金を受け取っても良かったはずだから。

僕は、いま会社を経営している。パートタイムであれ、誰かを雇う余裕はないけれど、なるべくフェアに賃金設定したいと思っている。それは、「そういう時代だから」ということではなく、大学生のとき、高校生を不憫に思った気持ちがあったからだ。不憫というか、なんかちょっと胸が痛い、「彼らを差し置いて、こんなにもらって良かったのだろうか」というような後ろめたさという感覚に近い。

あれから、もう20年経ったんだなあ。

確か、あのプールに、たった一度、客として訪ねたことがあった。

ゴーグルをかけていたのでバレなかったけれど、働いていた監視員は、知り合いなのかそうでないのか、いまいち判別がつかなかった。不思議なものである。

あんなに、仲が良かったはずなのに。