卵(ふつうエッセイ #456)

1個あたり数百円の卵も存在するらしいが、やはり、卵によって味は異なる。

スーパーで売っている卵だって悪くない。だけど、時々食べる、地元・栃木の卵は別格に美味い。「那須の赤い太陽」と命名されるだけあって、卵黄は美しい赤みを帯びている。茶碗によそった白飯に、まっすぐに卵を注ぎ、ちょいと醤油をかけるだけで馳走になる。

卵の専門家ではないが、「これはたっぷりとビタミンEが入っているなあ」と実感する。なんてったって、赤い太陽だ。名前に全く劣らない存在感で、卵を食べながら目を細める。

妻には「絶対にこれは目玉焼きにしてはいけない」と通達しているのだが、ときどき赤い太陽がフライパンで「焼かれて」しまうことがある。

「こんなにたくさん(=30個)入っているのだから」と意に介さない妻を見ると、那須の赤い太陽にロマンを感じているのは僕だけかもしれないと感じてしまう。嘘だ、こんなに美味しいじゃないか。その思いは虚空へと消えていく。

卵をめぐる冒険。

村上春樹さんが書かないのであれば、僕がこのタイトルで小説を書いてやろう。羊男ならぬ、卵男を登場させたりして。「いるかホテル」の代わりは何にしようかな。アシカかな?