垢(ふつうエッセイ #370)

垢とは「よごれ」を意味する言葉だが、インターネットでは本垢、サブ垢といった略語で使われている。

ここでいう垢は「アカウント」のことだけど、たぶん誰かが「アカウント=垢」と言い出したのが面白くて、一気に広まっていったのだろう。ネットスラングの流行というのは昔から興味深いが、一歩引いて眺めてみると、実に近寄り難い言葉遊びだなとも思う。(まあ、もともとスラングが卑語、俗語を意味するものではあるのだが)

一方で、文字に落としたときの本垢、サブ垢と、口にしたときのそれの違いは結構違うものだ。口にしたとき、「垢」は「垢」とは限らない。「アカ」かもしれないし「あか」かもしれない。それを耳にしたときに、「よごれ」のようなものを感じることはほとんどない。文字として書き起こすことの重みなんだよなと気付く。

噂話だってもちろん怖いけれど、オープンなコミュニケーションが可能になってしまったSNSで、噂話のようなものが淡々と文字として記録されていくのはけっこう怖い。内輪で話しているような「ここだけの話」が、生々しく拡散されていくことに危惧を覚える。それは「あか=垢」として、はっきりと伝達されていくことと同義なのだ。

大事なことは、きちんと言葉に残しておきたいと個人的には思う。だけど、決して言葉に残せない感情だってあるのだから、その存在は良い意味で秘匿していたいと思う。そこには罪悪感とともに、僕という人間の卑小さや猥雑さが潜んでいる。誰にもいえない。

そんなダークサイドの存在を、認めることから始めるのだ。