品川駅高輪口(ふつうエッセイ #282)

品川駅高輪口を出て、横断歩道をわたったところにあるアンナミラーズ高輪店。品川駅西口基盤整備事業に伴う移転要請のため、閉店することになったという。

僕が5年ほど前まで在籍していた会社は、品川駅高輪口にあった。アンナミラーズのすぐそばのビルで、同僚(特に女性社員)は、時々食事を楽しんでいた。SNS上でも「寂しい」という声が散見されている。僕自身は数えるほどしか足を運んだことはないのだが、高輪口の「玄関」的存在のように思っていたから、一抹の寂しさは感じている。

「品川駅西口基盤整備事業」らしき影響によって、かつて通っていた定食屋やレストランが続々と閉店している。この事業は何を目指しているのか調べてみると、次世代型交通ターミナル、シンボリックなセンターコア、開発計画と連携した複合(交通・防災)ターミナル、人々が集う賑わい広場……などが「将来の姿」として描かれている。

すでに十分な人々が集まっているわけだが、まあ港南口と比べると、建物などはややくたびれているので(あくまで比較であり、十分使えるものだ)、お金をかけて一新したいのだろう。

防災のことは分からないが、人々の生活を強制的にcloseさせてまで壊す必要はない。品川区なのか、港区なのか、東京都なのか、日本という国なのか。羽田空港や成田空港から来る海外の観光客は品川を経由する場合も多いわけで、メンツというか、見てくれは大事なのは分かるけれど。この辺りは、古き良きものを維持するカルチャーの、ヨーロッパの主要都市とは大きな「違い」である。

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実際、いまの高輪口が高輪口として栄えたのは、100年にも満たない。

開発を繰り返して、いまの高輪口のようになってきたわけだが、品川プリンスホテルもシナガワグース(前「ホテルパシフィック東京」「京急EXイン」)も、まあまあちゃんと立派な建物を維持している。

新しい複合施設が完成したら、いまの景観のことなど忘れ去られてしまうだろう。「むかし、ここにアンナミラーズがあってね」なんて会話はノスタルジーだって馬鹿にされるはずだ。

考えてみれば、過去の景観はアーカイブされた資料などでしか辿ることができない。東京に、語り部なる存在はほとんどいない。(いたとしても、多くの人にとっては身近ではないだろう)

人々の記憶なんて曖昧で、そして普段見慣れている品川駅高輪口の景観など、どうでも良いっちゃ、どうでも良い。

実際、新しいものは、確かにカッコいい。

スーパーシティとか、未来都市とか、革新的なサービス創出とか。どれも威勢が良い。

でも、その全ては、100年後には綺麗さっぱりなくなってしまうのだ。(いまのサイクルを踏襲するならば)

そんなものに、どんな価値があるというのだ。

それこそ、僕には「さっぱり」分からない。

僕も品川駅高輪口の、いまの景観なんて正直どうだって良い。どうだって良いけれど、新しく生まれ変わるものに価値は感じない。そういう場所が、東京にはちょっと多すぎやしないだろうか。