Sサイズのバナナ(ふつうエッセイ #283)

バナナというのは、大人も子どもも好きな食べ物だ。

同時に、なかなか他では見当たらない万能選手でもある。

小腹が空いたときでも、食後のデザートでも、いける。ヨーグルトにいれても良いし、ミキサーでバナナジュースにしても美味しい。もちろん、そのまま食べてもOKだ。

息子の食欲がなくても、とりあえずバナナさえ食べてもらえれば安心できる。腹持ちは良いし、栄養価も申し分ない。他の果物に比べるとリーズナブルということもあり、我が家ではほぼ毎日食卓に並んでいる。

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そんな有難い存在のバナナを購入するとき、僕はけっこう真剣だ。それは状態が良いバナナを選ぶためではない。5本入りのバナナを探すためだ。

というのも、1歳半の息子が、ときどきバナナを残すのだ。

食後にバナナを渡すと、嬉々とした表情を見せる(実際のところ、息子はバナナが大好きではある)。

なのに、目を離すとバナナを残しているのだ。しかもちょっとしたところに隠したりする。自宅でテレワークをして、ランチでも食べるかと思って腰を上げたところに、食べかけのバナナが置いてある。時間の経ったバナナのグロテスクさは、想像に容易いだろう。

息子にとって、食後の満腹な状態で食べるには、バナナとはややボリューミーな存在なのかもしれない。4歳の息子は当たり前のように完食してくれるから、もうちょっと成長すれば完食できるのだろうけれど。

「残す」というのは、子どもにとっても気持ち良いものではないはず。だから僕は、5本入りのバナナを探すのだ。4本入りのバナナの場合、ひとつひとつのサイズが大きい。5本入りだと、Sサイズというか、わりと食べやすいサイズ感になっている。

これは僕の個人的な偏見だけれど、どうやら、スーパーでは4本入りのバナナが人気ではないか。4本入りのバナナの方がしっかり見えるし、大人にとっては「ちょうどいい」サイズだから。

(たぶん)そういった事情もあり、5本入りのバナナがなかなか見当たらないことがある。それでも丁寧に、いや、辛抱強く掻き分けていくと、5本入りのバナナに巡り会える。

Sサイズのバナナは、我が家にとってマストアイテム。「我が家にとって」と書いたけれど、たぶん妻も息子も、そんなこと気付いてはいない。長年の買い物経験から、導き出した最適解であり、僕なりのこだわりに過ぎない。

そんなこんなで、スーパーマーケットでせっせとバナナを仕分けしている男性客がいたら、僕かもしれません。あるいは僕のような事情を抱えている人かもしれない。なるべく短時間で仕分けするよう努めてはいるので、どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。