25歳、アルゼンチン、時々ウルグアイ(鈴木ゆうりさん #3)

35キロあたりになると、ダニエルの口数がだんだんと少なくなってきました。足が相当痛むようで、時々止まってしまいます。

*

先に行ってくれ、とダニエルが口にしますが、ここでダニエルを置いていく選択肢はわたしの脳内にはありません。

「ノン、プロブレマ!バモス!」(問題ない!大丈夫!一緒に行こう!)

ダニエルは申し訳なさそうに、はにかみながら頷きました。

「ロシエント」(ごめんなさい)
「ノン、ノン、メグスタエステ!」(全然!これ好きだよ!)

謝らないで欲しかったし、何も申し訳ないと思う必要はありません。ここまで一緒に辿りついたんです、一緒にゴールテープを切りたかった。
ダニエルの様子を伺いながら、途中で歩いては止まって、歩いては止まってを繰り返して、わたしたちは前に一歩ずつ進んでいきました。

40キロを過ぎると、もう既にゴールをして家路を歩むランナーの姿がちらほら現れます。
わたしたちの姿を捉えると、頑張れ!頑張れ!ゴールはすぐだよ!と唾を飛ばして大きな声で応援してくれました。

「ダニエル!ムイセルカ!」(ダニエル!もう近いよ!)
「シィ!バモス!」(ああ、行こう!)

ダニエルの歩みがさっきよりも心なしか速くなり、それに合わせてわたしの歩幅も広くなります。
わたしたちは肩を並べて、決してどちらかが先を行くことなく、ゴールを見据えていました。

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