ふつうは厳しい(ふつうエッセイ #4)

7月末に閉店したパン屋「Bakery Bran(ベーカリーブラン)」のことを記事に書いた。

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有難いことに「事業の厳しさが伝わってきた」という感想をいただいた。確かに、取材のときに感じた「厳しさ」を伝えたいと思っていたので、それが伝わったことが心から嬉しかった。

その一方で、十分に伝えられていないことがあるようにも思えた。

それが何か少し考えていたのだけど、たぶん、取材のときに、店主の福山さんが明るく対応いただいたことがテキストに落とし込めていなかったのではないかと思う。

明るく対応いただいたとは言え、もちろんケラケラ笑いながらとか、そういうことではない。35年間を振り返って何度も厳しい状況に立ち遭われたはずなのに、悲壮感はない。次の仕事が決まっていないにも関わらず、淡々とご自身の仕事を振り返っていた。

「厳しさ」を愛でる、とは言い過ぎだけど、少なくとも、厳しい状況に対して後悔の念はないように思えたのだ。

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仕事が厳しい、大変だということは、ふつうなことかもしれない。

厳しさから生まれる、楽しさや充足感を得られるのは、仕事の不思議で意義深いことだ。

もちろん、過剰に疲弊するほどに心身にダメージを負ってしまうのは、ふつうなことではない。

厳しさをきちんと通過しながら、前を進んでいくことは必然なのだろう。取材で得たのは、そんな人生観だった。