アイロンをしまえない(ふつうエッセイ #516)

使用したアイロンを元に戻すタイミングが分からない。

使った直後はアツアツで、元の場所に戻すと、他のものに触れてしまう可能性がある。僕以外の家族が、誤ってアイロンに触れないよう、手の届きづらい場所に置くのがセオリーではないだろうか。

しかし、そのアイロンをいつしまえば良いのか。

10分後にはOKなのか。30分で十分なのか。1時間くらい様子を見た方が良いのか。

特に始末が悪いのは、朝アイロンをかけて、手に届かないところに置きっぱなしにして出掛けてしまうことだ。家に帰ると、アイロンは変わらない場所に放置されていて。見栄えも悪いし、アイロンにとっても本望ではないはずだ。「僕は、こんなところにいるべき男じゃない!」なんて。なぜ男性で擬人化してしまったのかは自分でも分からないけれど。(ちなみにフランス語でアイロンは「fer à repasser」、男性名詞のようだ)

いつか全ての「もの」が、IoT化した場合、アイロンも喋るようになるのだろうか。そしたら絶対いわれるだろうな、「僕の扱い雑じゃない?」って。

考えてみれば、水を入れて、短時間でアイロンをかけられる状態に達する。そしてスイスイと衣服のしわを取ってくれるのに、いざ終われば、「火傷するといけないから」といって遠ざけられる。

こんなにも、使う前と使った後で、使用者の態度が豹変する「もの」は少ないんじゃないか。

生まれ変わったらアイロンにはなりたくない……。なんていったら、またアイロンくんは怒るだろうな。ごめんよ、これからは、もっと大事にするからね。