7月末で閉店した、町のパン屋のこと

東京・目黒区。武蔵小山駅から徒歩8分の平和通り商店街に「Bakery Bran(ベーカリーブラン)」というパン屋があった。

「パン屋があった」と過去形にしているのは、残念ながら、7月末に閉店してしまったから。35年間、地元の人に愛され、客足が落ち込んでいる印象もなかった。最終営業日が近付くにつれ、閉店を惜しむお客さんが列をなしていた。緊急事態宣言が発令しているにも関わらず。

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パン屋の「ひと」のことを、僕は何も知らなかった。

ここで読者の皆さんに問いたいのだが、「あなた」が足繁く通っているパン屋があったとして。パン屋で働く店員の名前を知っているだろうか?実際にパンを焼いている職人の名前は?オーナー(経営者)の名前は分かるだろうか?

「あそこのパン屋さん、美味しいよね」と家族で話していても、実は、パン屋に関わっている「ひと」の名前を知らないことが殆どではないだろうか。

何だかそれは不誠実な気もしたし、何かが決定的に間違っている気がした。


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考えてみれば、Bakery Branは、ふつうのパン屋だ。

東京都内、駅近の商業ビルでは、当たり前のように200〜300円台でパンが売られている。もちろんそれらはめちゃくちゃ美味しいわけだが、庶民が日常的に利用するには、ちょっと敷居が高い。(と思う)

Bakery Branで売られているパンは、だいたい100円台の価格がつけられていた。クリームパン100円、あんぱん120円、どっさりレーズンパン120円、カレーパン130円……という具合に。味もふつうに美味しく、老若男女問わず店を訪ねていた。

ふつうに美味しい、ふつうのパン屋。

閉店が決まっている店に取材を申し込むなんて、あまりに非常識だとは思いつつ。取材したいことを電話で伝えると、店主の福山高志さんは笑いながら「あんまり面白いことはないよ」と謙遜した。と同時に「失敗の連続だったことは言える」と。

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