7月末で閉店した、町のパン屋のこと

綺麗事ではない、商売の厳しさについて

店主の福山さんには、Bakery Branの後片付けをしながら取材対応してもらった。

僕が聞きたかったのは(あるいは引き出したかったのは)、商売する上でBakery Branが大切にしていた理念や想いのこと。

だけど、それは裏切られた。

福山さんが話してくれたのは、理念や想いではなく「商売の厳しさ」だった。

* * *

例えば営業について。

「今、僕は鎌倉に住んでいるんだけど、毎朝車で2時か3時に入って仕込みをしてたんですよ」

パン屋は重労働とは聞いていたが、当たり前のように仕事中心の生活だ。19時に寝て、深夜に起きて、車を走らせて仕込みをする。そんな生活を35年間繰り返してきた。

「パンの専門学校に入って、いくつかのパン屋で修行。27歳で独立しました。修行当時は、16時間労働は当たり前という時代で、なのに給料が安かった。だから必死をお金を貯めて独立する人が多かったんです」

「高卒でどこか勤めても大した給料じゃないでしょう?普通の会社の重役くらいは稼げるから、売れると。それは原動力になったね」

「でもうちみたいな狭い店でも、初期投資で2,000万円かかります(機械で1,500万円、内装で500万円)。借金が何だとかいうと、それは負わなくちゃいけないですけど」

借金……

なかなか重い言葉だ。

「融資はもう何回も。数えきれないくらい。返しては借り、返しては借りてっていう感じでした」

1 2 3 4