焼きそばの湯気(ふつうエッセイ #247)

湯気ほどシズル感を表すモチーフはない。

どんなに美味しくない料理も、湯気さえあれば、パッと見たときに美味しそうなものと錯覚する。……というのは大袈裟だけど、ほかほかの食べ物を見ると食欲が増すのは間違いないだろう。

今日も、近くでコンビニ弁当を食べている女性がいて、彼女が食べているのが焼きそばだった。僕はコンビニ弁当を羨ましいと思うことはないけれど、彼女がフォークを入れるたびに、むわっと湯気が立ち上がるのは良いなあと思った。

夏なら、何でもない麦茶に氷がカランと入った音で、喉の乾きを感じるだろう。

春は、少しピンク色に染まった食べ物(パンとか)に食欲をそそられる。

ゆで卵だって、ほんのりと塩がかかっていて、ちょっとだけ溶けているあの感じは塩気を感じる。

どれもこれも、大したことないものだけど、ちょっとしたことで実質的な特別感が演出できる。食べ物に限らず、日々の生活を楽しくするためのヒントは案外近くにあるかもしれない。むわっと立ち上がった湯気を見て、そんなことを思った。