好きな町について(ふつうエッセイ #704)

好きな町が、いくつかある。

今住んでいる場所も好きなのだけど、ここでいう「好き」とは、憧れをほんのり孕むもの。いつか住みたい気持ちもあるけれど、たぶん住むまでは至らないだろうな、と思ったりして。でも最寄りの駅を降りて、少し歩くだけで「ああ、この場所に来たな」という感慨に浸れる。

そんな場所が、いくつかある。

例えば、東京の蔵前。友人の結婚式で訪ねたり、知り合いの経営者が店を持っていたり。その他にも、昔ながらの職人さんたちが小さな工場を持っている。道ゆく人たちも、「私たちは、蔵前を歩いているんだ」という誇りを持っているように感じられる。(これは気のせいかな)

別にパワースポットというわけではない。

だけど、訪れると少しだけ気分が高揚する。たぶん、ちょっとだけアクセスしづらいというのもポイントなのだろう。僕の住まいから、ちょいと遠い。行こうと思えば行けるけれど、何度か電車を乗り継がないといけない、とかね。

今朝、蔵前の空は青かった。

思わず写真を撮る。10年後、写真フォルダを見直して、この写真が目に入ったとき、「あ、これ蔵前で撮ったやつだ」とすぐに思い出せるような気がする。

それは、僕には珍しく確信めいた予感である。