どうして、そうなった。(ふつうエッセイ #637)

小学校4年生のときだったか、母に連れられて訪ねた美容院で、後ろ髪を直線に揃えられたことがある。

今でこそ「パッツン」のスタイルが好まれる場合もあるけれど、たいていの場合、直線に揃えることのメリットはない。たまに50〜60代の年長者がもみあげ辺りを直線にカットされているのを目にするが、やはり違和感は否めない。

たいていの場合、直線に揃えることは好まれないはずだ。なのに、彼(彼女だったかもしれないが)は、どうして僕の後ろ髪を直線に揃えようと思ったのだろうか。あまりに驚いたので、「まっすぐは嫌です」とはっきり伝えたところ、慌てて少し無造作に調整しようとしていた。もちろん、時すでに遅しである。

ここまで書いて気付いたが、同じようなことを大学生のときにもされたことがある。このときの美容師は男性だったか、女性だったか。ちょっと忘れてしまったけれど、それなりに仲の良い方だったので「あれ、まっすぐに揃えてしまったんですね」と遠回しに嫌味を伝えると、こちらも慌てて再調整に努めていた。

前者のケースは該当の美容院には行かなくなったし、後者のケースはわざわざ同じ美容院の別の美容師を指名することになった。(後者はとても気まずかった。4名くらいしか美容師がいない小さい美容室だったから)

髪を切ると、頭が軽くなる。

ありがたいことに(といって良いだろうと思うが)、僕は毛量が多く、すぐに頭部がボリューミーになってしまう。ゆえに美容室に行き、それなりにしっかり切ってもらえると頭が軽くなり、そして気持ちまでウキウキしてくるものだ。

だけど残念ながら、美容室に行って気持ちが暗くなることが稀にある。どうやら僕の髪の毛は「クセ」があるらしく、切り方を工夫しないと大変なことになるらしい。(と美容師がいつも言うのだけど、果たして本当だろうか。いやまあ、そんな嘘は言うまい)

でもお願いだから、髪の毛を直線に切ることだけは御免願いたい。

メタファー的に、何かで喩えようとしたけれど、ちょっと思いつかないですね。美容師というのは、なかなか転用の難しい、特殊な職業なのかもしれない。

どうして、そうなった。

「よかれ」の定義は、美容師それぞれで違うのかもしれない。だとしたら、彼らの定義を推し量るところから、客側が判断しなければならないのだろう。そう、髪の毛を直線に切られる前にね。