キルギスとモルモット、偉人でない僕(今井峻介さん #1)

話を戻そう。

待ち合わせは近くのレストランだった。僕たち以外にお客さんはいなかった(と記憶している)。何を食べたかもまったく覚えていない。

ご飯を食べながら、お互いに自己紹介をした。彼らはオーストラリア人で、親子連れに見えたが、実際には祖父母と孫だった。祖父母は若々しく、孫娘は中学生くらいで、僕には親子にしか見えなかったので驚いた。

数ヶ月前に孫娘の親が亡くなった。そのショックで孫娘は学校に行けなくなった。それを見かねた祖父母が世界旅行に連れ出した。男性は長年教師を務めていたが、今回の旅行を機に仕事を辞めた、ということだった。

「ずっと続けていた教師をやめるのに抵抗はなかったですか?」
「まったくないね。仕事がないって最高だよ。HAHAHA!」

祖父の仕事に対するさっぱりした感覚が新鮮だった。

どんな流れでそんな話をすることになったのか覚えていないが、僕は彼らに「愛というものがよくわかっていない」という話をした。

祖父母2人はすごく驚いた顔をした。

「愛がわからないってどういうこと?」
「そういうものがあることはわかるんですけど、自分が人を愛せているのかと聞かれるとよくわからないんです」
「恋人はいるの?」
「結婚していて子どももいます」

またちょっと驚いた感じのあとに、

「パートナーと子どものことを愛している?」
「大事だとは思っていますが、愛しているかと言われるとわかりません。僕にはよくわからないんです」

祖父が言う。

「その大事に思うという気持ちが愛なんじゃないかな。難しく考えなくていいと思う。愛情は誰にでもあるものだから」

そこでこの会話は終わり、別の話題に移っていった。

中学生くらいの孫娘はずっと黙ってスマホをいじっていた。僕が中学生のときにこの状況に置かれたら確実にそうするな、と思ったのをよく覚えている。彼らはこの寂れた景勝地であと一週間ほど過ごすらしい。こんな場所で一体どうやって時間をつぶすのだろうか。世界にはいろいろな人間がいるものだ。

1 2 3 4