遅刻魔(ふつうエッセイ #568)

遅刻ばかりしている人のことを、遅刻魔という。

「魔」とは、なかなか恐ろしい言葉だ。通り魔とは、文字通り、路上で犯罪を犯す人間のことだが、遅刻魔は「頻繁に遅刻をする人」という意味がある。「魔」と扱うにはなかなか手厳しいように思うが、確かに遅刻するときというのは「なぜおれは遅刻してしまったんだろう?」と原因不明なときがあるものだ。

例えば渋谷に12時集合だったとする。

別に寝坊したわけではない。なんならいつもより早く起きたし、朝食もしっかり食べている。ただ、着る予定のジャケットをなかなかクローゼットから出す気になれないのだ。ジャケットの下に着るシャツも、さっさとアイロンがけした方が良いに決まっているのだが、「まだ、余裕がある」とうそぶき、結局出発時刻ギリギリになってしまう。(そんなときに限って、ハンカチを忘れそうになるから不思議なものだ)

別に腑抜けているわけではない。

だけど、遅刻するときは、どう足掻いても遅刻してしまうのだ。(やたらめったに遅刻する人間ではないけれど)

ここまでのところを無理やりまとめると、遅刻には魔物がついている、だから「遅刻+魔物がいる→遅刻魔」なのではないだろうか。たぶん違うけれど、これが僕の中で最もしっくりくるロジックなのだ。

遅刻魔と呼ばれている人は、案外ちゃんと生活していたりするそうだ。漫画のように「ぎゃー、起きたら会議始まっている時間だああああああ」ということは、あまりない。家を出る直前、どのネクタイにするか熟考していたら、気付けば遅刻してしまうらしい。

魔界、魔法、魔物、魔神。魔人、摩訶不思議。

あ、最後のやつは「魔」じゃないか。

まあ、でも遅刻とは摩訶不思議なものである。遅刻を許してほしいエクスキューズみたいなエッセイになってしまったけれど、そもそも僕はあまり遅刻する人間ではないので、ご安心ください。(暇つぶしは得意なので、相手の遅刻には、わりと許容度が高い方だと思います)