同じ頃、友人がある絵本をプレゼントしてくれた。重い悪阻で臥せっていた私のために、本屋を梯子してくれたらしい。私が本の虫であることを、友人は知っていた。我が子に絵本の読み聞かせができる日を、楽しみにしていたことも。
友人が選んでくれたのは、アリスン・マギー著作『ちいさなあなたへ』。文章はもちろんのこと、ピーター・レイノルズの温かなイラストが魅力的な作品だ。パラパラとページをめくっているだけで、やさしい気持ちになれる。
はじめてこの絵本を読み聞かせたのは、天気の良い秋の日だった。絵本の表紙はパステル調の水色で、その日の空も同じように、柔らかな青だった。絵本なので文章は短く、使われている言葉も至ってシンプルだ。その中に、ハッとする一文があった。
やがて、せいいっぱい てを ふりながら しだいに とおざかっていく あなたを みおくる ひが やってくる
(アリスン・マギー『ちいさなあなたへ』より引用)
この絵本を読むまで、「産むこと」がゴールのような気がしていた。でも、そうじゃない。出産は“はじまり”で、やがて訪れる“みおくる日”もゴールではなくて、私は死ぬまでこの子の母親なのだと、そんな当たり前のことに、ようやく気づいた。
読み聞かせをしている間中、マメタは動き続けた。
ぽこん、ぽこん、ぽこん。
胎児とは思えないほど強い力で、お腹の内側を蹴る。その振動は、私にとって希望だった。
愛さなきゃ。どこかで、そう思っていた。しかし、それはいつの日か、「愛したい」に変わった。妊娠期間が10ヶ月もあることに最初は辟易していたが、親になるための準備には、長い時間が必要なのだと身をもって知った。一朝一夕で親にはなれない。親も子も、少しずつ育っていく。親として、人間として、転んだり起き上がったりを繰り返しながら。
絵本の読み聞かせのほか、童謡もよく歌った。定番曲は、「大きな古時計」。丸く膨らんだお腹を撫でながら、馴染みの曲をそっと口ずさむ。小さな小さなマメタが、力強く内側から返事をする。そのたびに私のお腹は、ほんの少し形を変えた。