仕事なんて腰掛けだった──父の死をきっかけに、社会課題の解決に取り組む(JINO株式会社 代表取締役 郷司智子さん・前編)

「聞こえない人は、無音の世界にいる」という誤解

多くの人が当事者性を持てないのは、情報不足、専門家不足によるものだと郷司さんは話す。正しい情報が行き渡らず、様々な誤解が生じているという。

郷司 智子さん(以下、郷司)「聞こえに関する誤解のひとつが、『聞こえない人は、無音の世界にいる』というものです。実際には、全く聞こえないという状況の人ばかりではありません。
100人いれば、100通りの聞こえ方があります。屋外ではちゃんと聞こえるけれど、屋内では聞き取りづらいとか。天候によっても聞こえ方が変わることもあります。誰ひとり同じではないので、それぞれの人に、個別のケアをする必要があるんです」

加齢によってのみ聞こえづらくなる、というのも誤解のひとつ。乳幼児期に先天的な要因によって聞こえの課題が生じているケースもあれば、就業期や成人期に外傷性や突発性の要因によって聞こえづらくなるケースもある。

郷司「当事者でさえも、聴覚に関する情報が十分とはいえません。どのメーカーの補聴器をつけているのか、知らない人も多いです。
補聴器の性能は良くなっているのに、日本では補聴器の満足度は低いままです。自分にとって本当に効果がある補聴器なのか、実感できずに使っていることを意味します」

そもそも補聴器をつけることは、聞こえの課題を解決する手段のひとつに過ぎない。聴力によっては、音源からの距離を工夫することによって、支障なく日常生活を送ることができる。

そういった背景を踏まえて、JINOは啓発事業にも力を入れている。

郷司「多くの人が、自分の視力を把握していますよね。でも『聴力どれくらい?』と聞かれて即答できる人はわずかです。まずはそこから変えていこうと思って、オンラインセミナーを開催したり、既存の補聴器販売店のコンサルティングをしたりしています」

(出典:JINO株式会社)
(出典:JINO株式会社)
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