耳は繊細な感覚器なのに、聴覚に関する情報が広く知られていない──
危機感を募らせるのは、郷司 智子さん(以下、郷司さん)。「聞こえの課題をゼロにする」という理念を携え、2019年にJINO株式会社を創業した。日本には「聞こえ」の課題が山積しているにも関わらず、適切な対処がなされていないという。
聞こえの課題とは、そもそも何だろうか。
そして、聞こえを取り巻く社会課題に、郷司さんはどのように取り組んでいるのだろうか。聞こえの課題を身近に感じていなくとも、自分ごととして読んでいただけると嬉しい。
郷司 智子(ごうじ ともこ)
茨城県生まれ、幼少期は父親の転勤に合わせ関東各地を転々とする。
20代の頃に父親の介護を経験。その後、補聴器メーカーなどで働き、2019年に、同僚だった平野 幸生さんとJINO株式会社を創業、代表取締役社長に就任する。
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東京都杉並区、荻窪駅から徒歩6分のところに、郷司さんが経営している補聴器専門店「耳のそうだん室 JINO(以下、JINO)」がある。緑と本棚に囲まれたゆったりとした雰囲気で、開放的なカフェのよう。
JINOが主に扱っている補聴器や、補聴器を取り巻く環境について、筆者はほとんど知識を持たなかった。筆者の周りに、補聴器をつけている親族や友人はいない(気付いていないだけだったかもしれないが)。正直なところ、私とは関係のない話だと捉えていた。
認識を改めたのは、日本に推定難聴者が1,650万人もいるという事実を知ってから。実に日本人10人に1人の割合だ。しかも9割以上が、聞こえ方に違和感がありながらも、具体的な対策を講じていないという。