20代はずっと悩んでいた。飛び込んだ芸能界で味わった葛藤の日々(俳優 黒澤リカさん・前編)

準備することで、飛び込める

俳優をやってみよう。決めたは良いものの「そもそも演技とは何か理解していなかった」と話す黒澤さん。

黒澤「演技のことを全く分かっていなかったからこそ『お芝居をしよう』と決められたのですが……それにしても、いま振り返れば、ほとんど準備もせず、とんでもない状態で現場に行っていたように思います。とにかく指示された通りに動いているだけ。とても芝居とは言えませんでした」

演技における準備とは「台詞や動きを憶えるだけではない」と黒澤さんは話す。

例えば黒澤さんが長編作品で主演を務めるとき、主人公の年表を作ってみるのだという。脚本で描かれている台詞をもとに「こんな口癖があるなら、こういう人かもしれない」と考える。そのイメージをもとに現場で演技をし、監督とすり合わせしながら、作品を作っていくのだ。

黒澤「俳優としての仕事を始めた頃、とある映画監督のワークショップに参加しました。題材は『シェイクスピア』でした。ワークショップ当日に、俳優たちに役が割り振られるんですが、どの役が振られるか分からない。だから、とりあえず全部脚本を憶えなくちゃいけないんです。ワークショップは全部で10回ほど、2ヶ月間みっちり稽古しました。
その監督に『相手のことをちゃんと見なさい』とアドバイスしてもらったんです。台詞を正確に話すだけでなく、相手の存在を感じながら演技することが大切だと学びました」

ワークショップ以降、オーディションに参加しても不安を感じることは少なくなったという。どんな振る舞いをすれば良いか分かるようになったからだ。黒澤さんは、そのことを受験勉強に喩える。

黒澤「準備なしに、いきなりオーディションに行っても結果は芳しくないでしょう。何が求められているのか、どう振る舞えば良いか分からないからです。受験も同じで、勉強や受験対策という準備をすることで、『きっと大丈夫』と思えます。
準備したからといって必ず良い結果になるとは限りません。でも準備することは、いま私が仕事をする上で大切にしていることのひとつなんです」

(Photo by Momoko Osawa)

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