上京してそろそろ10年。寒さの厳しい北国で過ごした幼少期〜学生時代と同じくらい、東京で過ごした日々が自分の核になりつつある。
東京という街を「居場所」と思えるようになったのは、実はここ数年のこと。みっともなくあがいている自分もかっこつけている自分も、素のままで見せることのできる人たちに出会えてから。今回ご依頼をくださった堀さんもその一人だ。
「愛を語ってくれませんか?」
そのテーマに戸惑ったりもしたけど、せっかくの機会。思う存分4つの「愛」について語らせていただきます。小波季世、31歳。東京で文章を書いたり読んだりしながら暮らしています。
1つ目の「愛」は、文字通り半生を共にしてきた特別な作品『冷静と情熱のあいだ』について。コーヒーやお酒を片手にのんびりお読みいただけたらうれしいです。
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「江國香織さんの小説が好き」。
誰かが江國さんファンだと知ると、少しどきどきする。その人の心の深いところを勝手にのぞき見してしまったような、後ろめたさにも似たほのかな緊張感。
『きらきらひかる』、『薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木』、『神様のボート』、『スイートリトルライズ』、『金米糖の降るところ』、『泣く大人』、『泣かない子供』、『いくつもの週末』…。
江國さんの作品は、タイトルからして美しいし、流麗な文体に何度もうっとりしてしまう。美しい日本語、あるいは日本語の美しさというものを、江國さんの作品を通してわたしは初めて知った。
江國さんファンということは、その人の中に、その世界観に呼応する何かがあるということだ。「誰か」の裸よりももっと本質的な、「その人自身」を勝手にのぞき見してしまったような気持ちになる。