Slackの「さん」(ふつうエッセイ #110)

添付ファイルをパスワード付きのメールで送るとか、携帯メールの件名の「Re:」は消すとか、誰が始めたのか分からないけれど謎のルールというものがどの世界にも存在する。

メールではご丁寧に、「○○さん、お世話になっております。〜〜株式会社の■■です」ということわりが入る。送信者も受信者もたいていは明らかなのに、そして何なら何度も同じ件でメールのやりとりをしているはずなのに、冒頭のことわりは必ず入れるのがルールというか、マナーなのだ。

Slackにせよ、Chatworkにせよ、Google Chatにせよ、Microsoft Teamsにせよ、チャットツールがコミュニケーションによって広く使われるようになってからそういったルールが前時代的になっていったけれど、それでもやはり、また新しい「謎ルール」が生まれている。

例えばSlackでは、相手に通知を送るために「@horisou」という感じでアカウント名をつける。通知を送らないと見逃しが発生するので、通知するというのは、まあ、大事なアクションだ。

だけど時々、「@horisou さん」というような感じで、アカウント名のとなりに「さん」をつける人がいる。おそらく呼び捨てにするのがマナー違反なのでは?という気遣いなのだろう。これはFacebookなどのSNSでも、ときどきみられる現象だ。

別にそれは否定しないけれど、余計な気遣いによって違和感は敷衍していく。以前勤めていた職場では、海外の取引先と月に1回電話会議を行なっていた。英語で会話をする必要があるのだが、先方は僕たち日本人を気遣って、「Horiさぁん」みたいな「さん」付けを常用されてきた。同じ部署のメンバーは何も感じていない様子だったが、誰かが「ふつうで良いっすよ」って言えなかったかなと僅かに後悔している。

なんで、こんなふうに、違和感あるルールが続いてしまうんだろう。

このルールを知らないばかりに、新参者がうっかり地雷を踏むような不利益を被ることだってある。嫌だなあ。

そもそも名前だって、自分の親が命名した通称であり、生きている間のみに通用する当座限りのものなのだ。僕は僕であり、君は君だ。僕のことを「堀さん」と呼ぶ人が大半だけど、「聡太さん」でも良いし、昔のニックネームである「ほっくん」でも構わない。なんなら「フランスパンさん」とか呼んでもらっても大丈夫です。最初は何のこと?って感じだけど、一度「フランスパンさん」と認定されたのであれば、「フランスパンさん」をその方の関係上は貫き通す所存でござる。

クリスマスイブに書くエッセイかよ、と思ったりもするのだけど、これもまた人生だ。謎ルールは、サンタさんに供養してもらいましょう。