細野晴臣さんの声(ふつうエッセイ #79)

「声が良い」とか「声が美しい」とか、声への褒め言葉がある。

人の美醜に関する表現は減っているが、声に関してはさほど問題視されていない。ただもちろん「声が悪い」とか「声が美しくない」とか、そういう可能性を内包した声に関する評価もいずれは減っていくだろう。実際のところ、全ての人の声はユニークで、美しいものだ。

という正論はさておき、細野正臣さんの声は、とても美しい。

声のトーンが低くて、毎朝、自分の手で挽いたコーヒーのような深い味わいがある。、

年を重ね、様々な活動を経て。声だけでなく、顔の皺のひとつひとつも美しい。「細野晴臣」という人間を体現しているように感じる。

繰り返しになるが、どんな事柄にせよ、美醜に関するコメントを軽々しく口にすべきではない。

でもそういった価値基準や倫理観を飛び越えて、細野さんの声の美しさを強く訴えたい。

ああ、そうだよね。良いよね。

なんて余韻は、ささやかな幸福感をもたらしてくれる。