月の宴(ふつうエッセイ #78)

具体的な店の名前を出してしまって恐縮だが、株式会社モンテローザのマイナスプロモーションではないのでご安心ください。

僕が仕事をしている大崎のコワーキングスペース、周囲にご飯を食べるところがそれほどなく(あるんだけど、ちょっとお高い)、だいたいはお弁当などで済ませてしまう。

先週、仕事のペースが上がらず困っていたので、文庫本を携えて外食することにした。駅の反対側まで足を運び、「そういえば個室でゆっくりできる場所があったな」と思い、件の「月の宴」へ。

ランチタイムをちょっとだけズラしたので、店内には空きがある。

税込み700円の唐揚げ定食を注文し、本を読みながら自らの仕事の甘さをひとしきり反省する。(クリエイティブ・ディレクター、CMプランナーの岡康道さんの『勝率2割の仕事論』という本で、岡さんは昨年7月に亡くなられている)

そんな岡さんに申し訳ないのだが、ページを繰っている途中で眠気が襲ってくる。温かい味噌汁のせいだろうか。いかんいかん、と思いながらもウトウトしてしまった。

うっすら夢を見た記憶があるので、10分程度、船を漕いだのだと思う。うーんと伸びをして首を回すと、天井の照明が「月」の形をしていた。

なるほど、確かに「月の宴」だ。

古来から、月を眺めながら宴を催すことはあったようだが、現代でも月のようなものを感じながら祝杯をあげるのはポピュラーなものなのだろう。いまいち、その辺りの感性は分からないが、そういえば店内もちょっと薄暗い。

間接照明、というわけではないのだが、たぶん昼寝に最適な照度で設定されているような気がする。

ありがたいことに、店員は、僕のことをそのまま寝かせてくれた。昼から夜にかけてノンストップで営業するので、まあ僕のような人間がいても構わないのだが、お客さんが入っている状態で夜の準備をするのも忙しない。さっさと出ていってくれた方が有難いはずだが、月の宴らしく、眠りにも寛容だった。

美味くて安い、ご飯処は結構たくさんある。

だけど「ちょっとだけなら寝てても良いですよ」というお店は、とても少ない。僕にとっては有難いシェスタの時間だった。ちょっと遠いけど、何かの折にはまた行こうと思う。

まあ、たまたまだった説もあるけれど。