誰も知らない。その選挙の裏側で

仕事と、食べること、寝ること以外のほぼ全てを削除した

選挙期間中、それなりに選挙に関する発信を続けていく中で、知人を介して「選管」の関係者を紹介してもらった。

選挙期間中は「とても話ができる状態ではない」と言っていたAさん。選挙が終わり3日経った夜、ようやくAさんの話をZOOMで聴くことができた。

最も忙しい時期を駆け抜けたAさんは、思ったより元気そうに見えた。けれど、やはり言葉の端々に「抜け殻」のような覇気のなさを感じてしまう。

なお今回記事を書くにあたって、本人は匿名を希望している。本人の特定を防ぐため、詳述を避けている部分があるのはご容赦いただきたい。

*

前項でも書いた通り、選管の仕事は間違いが許されない。

たとえ1票でもカウントミスになれば、それは大きな不手際として報じられる。2020年のアメリカ大統領選挙後に「選挙は盗まれた」と主張し続ける人たちがいるけれど、何かミスらしきものがあれば、矢面に立たされるのは選管だ。あたかも重罪かのように断じられ、釈明に追われてしまう。

選管は、主に地方自治体の役所に所属する人たちで構成される。それほど複雑でない階層組織の中で、彼らは、山のような仕事を処理しなければならない。

ひと、もの、車両、場所……。その仕事は多岐にわたる。

そして今回の衆議院議員選挙の場合、「小選挙区」「比例代表」「最高裁判所 裁判官の国民審査」の3種類のオペレーションが発生する。自治体によっては、自治体の首長選挙や、地方議会議員選挙も重なる。

ご存知の通り、それらは基本的に「アナログ」な作業だ。

ヒューマンエラーが隣り合わせの環境に加え、決定的に選管の人員は足りていない。人手が足りない中で仕事を完遂させるには、それぞれが長時間労働するしかない。

*

今回の衆議院議員選挙は、岸田総理の意向により、予想よりも1〜2週間早めて行なわれた。

10/4(月)のネットニュースで報道を知ったAさんは、そこから「よーい、どん」で仕事に追われていく。当然、準備期間の余裕はない。

最終的に、Aさんは30連勤の業務に奔走した。過労死ラインを軽々と超える労働時間。それはAさんの職場に限らず、他の選管でも同様の「働き方」になっているそうだ。

「仕事と、食べること、寝ること以外のほぼ全てを削除した」

「減らない仕事」に粛々と対応し続ける毎日。その過酷さを淡々と語るAさんは、やはり「抜け殻」のように見えてしまう。

1 2 3 4