月明かりの下で(ふつうエッセイ #29)

ここ数日、家族が寝静まった夜に、軽くジョギングをしている。

家の周りをぐるっと1周するだけなのだが、どうしても気分が乗らない。走っては歩き、走っては歩きの繰り返し。10分くらいで走れるジョグに30分も費やしている。

だったら走らなければ良いのに、それはそれで自分を甘やかしているような気がする。重い身体を何とか前へ引き摺っていく。

柄にもなく、色々なことに悩んでいる。

会社を創業したばかりなので、そりゃ悩みも尽きないのは当然なのだが、それにしても小さなことでクヨクヨ悩んでいる。その心を月夜は見抜いているのだろうか。真っ直ぐと月明かりが差してくる。

* * *

第89回アカデミー賞の作品賞を獲得した映画「ムーンライト」。

主人公のシャロンは、貧困、いじめ、性自認、親のネグレクトなど様々な類の逆境で悩み、苦しんでいた。

20歳に満たない高校生にとって、あまりに凄惨な状況だ。それでも周囲との関わりの中で、少しずつ彼はアイデンティティを自覚し行動するようになる。

映画では、月が、彼のアイデンティティを照らす象徴的なモチーフとして使われている。

月が現れるのは闇夜だ。太陽光の方が力強いのだが、闇に一筋の明かりを照らす月はとても優しい。

迂闊にジェンダー論を刺激はしたくないのだが、それは、母性的とも言える。

月明かりの下で、少し肌寒い10月の夜に祈ったことは。不思議なことに、一夜明けると、あんまり憶えていないんだよなあ。