アスリートと地域貢献を両立。プロランナーが地元でランニング合宿を開催する理由とは?(利賀村ランニング合宿・前編)

プロランナーが地域貢献活動を行う理由

プロランナーとして競技活動を続け、今回もTOGA SUMMER CAMP直前まで北海道で合宿を行っていた須河さん。選手として結果を出すことを目指しながら、なぜ地域貢献活動を行うのか。

市民ランナーとして日々走る筆者も、ランニングと仕事を何とか両立している。しかし、それを高い水準で並行させることはとても難しいことのように思えた。

須河さんは競技活動を続ける中で、陸上競技以外、つまり社会のことへ目を向けていくことの重要性を感じたという。

「実業団チームに入って競技を続ける一方、選手を引退した後に何を残せるのだろうという疑問がありました。選手として良い記録、結果を出したとしても、それが知名度と比例するとは限らない。ランナーとしては実業団の方が速く走れるかもしれませんが、自分のような選手の場合、人知れず終わっていく危機感があって。引退後のキャリアのためにも、プロランナーとして活動しようと思いました」

「アスリートとして活動している今がボーナスタイム。競技だけでなく様々なことをやってみようと思っています。僕の場合はスポンサーに富山の企業も多いので、地域に貢献していくことがスポンサー企業にとってのメリットにもなります」

今後のキャリアを模索する中で、地元・富山での地域貢献活動を始めた。その中で、須河さん自身が魅力に感じ、知ってほしい地域の魅力や人に気付いた。 

「地域にはその場所で生業を作る人たちがいて、その人たちの話を聞いていると、そこにしかない魅力が伝わってきます。ランニングという入り口から利賀村を訪れてもらって、地域の魅力を感じてファンになってもらいたい。「瑞峯」のご主人もジビエ猟師をやったり、畑を作って野菜を育てたりしていますが、そういう話は直接来ないと聞けません。まず接点を作ることで、ファンになり地域を再訪してくれる流れが生まれます。地域との関係性を作ることができたら、どんな地域にもチャンスはあると思います」

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その過程には、須河さんだけでなく周りの人々の協力があって辿り着いた。

(左が来住裕也さん)

「今回、合宿を行うことになってどれくらい参加者が集まるか分かりませんでした。一人では難しく、HISの来住さんや妹(須河沙央理さん)に協力してもらったからこそ実現できたと思います」

やってみなければどうなるか分からない中、周りの方々の協力があって辿り着いた初めての合宿開催。そうして一緒に行動する方々も、須河さんの想いや利賀村の魅力を感じたからこそ一緒に進めることができた。

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地方創生という言葉には、数々の捉え方があり、それは立場によって異なる。企業や行政などが行う施策からすれば、須河さんが起こしたアクションは小さなインパクトに過ぎないかもしれない。

しかし、参加者には確実に利賀村の魅力が伝わり、ファンになってもらえたのではないだろうか。

須河さん自身は「地方創生という大したことをしているつもりはない」と謙遜していて、事実、その言葉の大きなイメージからは離れているかもしれない。

だが須河さんのように、自分の想いから周りの人々の共感を得て、地域のことを好きになる人が増えていくケースは少しずつ増えていて。小さなアクションから始めることの重要性を筆者は感じた。

中編では、TOGA SUMMER CAMPを共に作った参加者を紹介する。利賀村の魅力に触れたランナーに焦点を当て、どのような発見があったのかを詳述していく。

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