ノーヒットノーラン(ふつうエッセイ #609)

プロ野球を観ていると、最近、わりと当たり前のように「ノーヒットで途中交代」というケースが続いているように思う。あとひとりでヒットを打たれて、「残念、でも完封で良かったね」みたいなことにならない。ピッチャーの怪我を避けるために、メジャーリーグ同様、慎重な球数制限が敷かれているのだ。(以下はそういった事情や前提を踏まえて記述する)

僕にとって(あるいは一般的な野球ファンにとって)、ノーヒットノーランとは特別なゲームだ。翌日は新聞一面に大々的にノーヒットノーランが報じられる。達成したピッチャーは「ノーヒッター」として長く賞賛されるものだ。

だが、最近のプロ野球では様相がずいぶん異なるようだ。「まだこのピッチャーは経験が浅いから」なんて理由で交代させられる。そして最近は「監督は将来のことまでしっかりと考えているな」なんて一目置かれたりする。

でも、それって実際のところ、どうなんだろう。

さすがにノーヒットノーランだけで年俸が跳ね上がるなんてことはないけれど、「ノーヒッター」ということで、ピッチャーはかなり特別扱いされるものだ。活躍して当たり前という空気が流れ、期待を一身に集める。ノーヒットノーランの翌試合はあっさり打たれるなんてこともある。十分に対策され、かつ本人もプレッシャーがかかるのだろう。

だがそれ以上に、「このピッチャーを活躍させることができなかったらどうしよう」という、スタッフ陣の責任が問われるのかもしれない。起用する監督が悪い、なんて声がかかるのも当然だ。なんせノーヒットノーランを達成したピッチャーなのだから。それが嫌で、ノーヒットノーラン前に降板させるというのは、やや穿った見方だろうか。

開幕して1ヶ月は、どちらかというとピッチャー有利な時期だ。データも少なく、ピッチャーの成長にバッターが適応し切れないことが多い。毎年のことだ。

でも、ここからバッターの逆襲が始まる。粛々とホームランを狙っている強打者の鋭い目付きを、見逃してはならない。ある意味、ゴールデンウィーク明けからが開幕なのだ。でもそんな正々堂々とした対峙から、また球史に残るようなノーヒットノーランも観れたら嬉しい。