一瞬の判断(ふつうエッセイ #656)

映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」で、主人公のマイルスが、マルチバースの入り口に飛び込むかどうかを逡巡する場面が出てくる。

友人で、かすかな恋心を抱くグウェンが「もうマイルスには会わない」と決意して、マイルスのいる世界を去る。グウェンが立ち去った後で、「この入り口に飛び込むかどうか」を決断するのだ。

世の中には、一瞬の判断で物事の方向性が決することが多々ある。

商談の中で概算の見積もりを提示するかどうか。将棋や囲碁でどんな手を打つか。二死満塁のフルカウントでどんな球種を要求するか。

いずれも、それほど時間がない中で、正しい選択をしなければならない。

かくいう僕も、映画の仕事をするようになって、仕事の合間に映画館に足を運ぶ機会が増えた。移動時間も含めると、3〜4時間程度は映画鑑賞に時間をとられてしまう。締め切りが迫った仕事との兼ね合い / 折り合いをどうつけるべきか。映画館へ向かう出発時間ギリギリまで迷っていることもある。(実に効率の悪い動き方だ)

一瞬でくだした判断が、正しいときも正しくないときも、かつてあった。

だけど、特に判断ミスの方は、あんまり憶えていない。僕の記憶力の問題かもしれないけれど、案外、記憶に残り続けるような致命的な判断ミスなんてないんじゃないかと思う。

記憶に残っているのは、「ああ、良い判断したな!」という実感だけ。仮に一瞬の判断で、致命的に悪い状況に至らないのであれば、ポジティブに人生 / 運命を変えられる方に振った方が良いのではないだろうか。

マイルス、グウェン。彼らのストーリーは、2024年の続編まで続いていく。考えてみれば、彼らは10代の若者だ。なのに、大人が目を見張るほど潔い決断ができる。その決断は自信に満ち溢れていて、観る者に勇気を与えてくれる。

そうね、今度は大人の番だよね。せっかくだ、思い切って決断しちゃえば良いんじゃないかな!