笑ったり、泣いたり(ふつうエッセイ #386)

2022年8月に配信開始された、Netflixドラマ「MO / モー」が面白い。

モー・アマーさん演じるモーが愛らしい。彼の一挙手一投足に、笑い泣きできる。実際に涙が出たわけではないけれど、「いま」の映画として観ることができて良かったと心から思った。

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「笑ったり、泣いたり」。

この歌詞で始まるのが、スピッツ「夢追い虫」だ。序盤で「美人じゃない、魔法もない、バカな君が好きさ」となかなか散々な歌詞も出てくる。でも長く聴いていると、この歌が現実を歌ったものなのか、夢の中のことを歌っているのかが分からなくなる。境界も曖昧で、白昼夢のような感じで立ち位置があやふやになる。

いま、僕は笑ってもいないし泣いてもいない。だけど8時間後には息子の言動で笑ってしまうかもしれない。それは10年前の自分には、考えもしなかった世界だ。10年前の2012年9月は、定職を探し歩き回っていた時期だ。「こんなはずじゃなかった」と、途方もなく焦っていた。

あれは夢じゃない、現実だ。

でも、あれが現実だったなんて誰が言い切れるだろう。布団を涙で濡らした記憶は一切ないけれど、本当に泣いてなかったなんて誰が言い切れるだろう。