蚊を叩くとき、なぜ人は手のひらが痛くなるほど強くするのだろう。
わずかにスピードは上がると思うけれど、そんなに変わらないはずで。そこには蚊を憎む心が確かに存在するような気がしている。
なぜ蚊を憎むかというと、彼らは僕らのことを攻撃するからだ。刺されると痒くなる。たまにグサッと奥まで刺されると、掻きむしりたくなるほど激しい痒みを感じるほどだ。
しかし蚊にとって、人間の血は「おまけ」のようなものらしい。彼らは基本的には花の蜜や果物に含まれる糖分をエサとする。しかも血を吸うのはメスだけで、交尾を終えたメスが産卵の栄養補給のために吸血するというのだ。
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だから蚊にとって、恨みを買うようないわれはないのである。人間が子孫を残すにあたり、「お前たちの出産は、おれたちの邪魔になる」と巨大な宇宙人の怒りを買うようなことがあったら、たまらない。「いやいや、僕たちは宇宙人さんたちの生命を傷つけているつもりなんてないですよ」なんて言い訳が通用することなく、進撃の巨人よろしく、僕たちは「ムシケラ」のごとく踏み潰されてしまうわけだ。
基本的には、それと寸分変わらないことを、僕たちは実行している。
幸いなことに（というべきか）、僕たちがせっせと蚊を潰していたとしても、生態系にはあまり影響を及ばさないようだ。それくらい蚊の生命力、繁殖力はすさまじい。そして蚊は、その生態系にもプラスの役割を果たしている。詳述は避けるが、蚊を絶滅させてしまうと、蚊を貴重な食糧として期待している他の生物の生存にも影響してしまうのだ。
数年前に、大量の蚊を飼育している高校生のドキュメンタリーを見たことがある。妹が蚊にさされやすい体質ということで不憫に感じたのをきっかけに、蚊の研究を開始したそうだ。多くの生物学者も気付かなかったような特徴も発見したスーパー高校生として取り上げられていたが、彼の蚊に対する眼差しの優しさに、こちらまでほっこりしたものだ。
蚊を憎むことは簡単だ。かといって、蚊を愛でろと言いたいわけでもない。
しかし、「蚊を憎む」世界は案外小さなもので、より広く世界を見ていくと、未知の好奇心につながっていく可能性があるのである。
そう考えると、少しだけ、蚊を叩く力が弱くなりそうである。そもそも夏は、蚊除け対策をしっかりした上で外出すべきなんだよな。
