9.11から20年(映画「ある戦争」レビュー)

9.11から20年が経った。

あの日、僕は高校2年生だった。「それ」が起きたとき、僕は気付かずに寝てしまって、翌朝ニュースで知ったと記憶している。

ただ正直な話、その日から数日の記憶は曖昧だ。

何かが起こった、だけど、なぜ起こったのか分からない。テレビの向こう側で、多くの人たちが悲しみに暮れている。悲しみには共感はできるが、状況は理解できなかった。

あまりに世界のことを知らない高校生だったから、9.11を言葉にすることができなかった。僕だけでなく、友人や教師も、9.11を語れる言葉を持っていなかった。

実際のところ、9.11から20年経ち、どれくらいの人が言語化できるに至っているのだろうか。

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デンマーク製作の映画「ある戦争(英題:A War)」は、アフガニスタンで平和維持活動にあたるデンマーク軍の兵士たちにまつわる物語だ。

映画序盤で、地雷を踏んだデンマーク軍の若手兵士が命を落とす。「なぜ僕らがこのミッションを担当しているんだ?」「ここにはいられないから早く帰国させてくれないか?」といった声が上がる中、リーダーのクラウスは士気を維持しようと味方を鼓舞する。

クラウスは、真摯な姿勢で、リーダーシップを発揮できるタイプだ。徹底的に個人に寄り添い、傾聴を試みる。無理矢理何かをやらせようとはしない。当然、仲間からの信頼も厚い。

そんなクラウスだが、数日後、敵の急襲に遭う。味方が窮地に立たされ、仲間は瀕死状態に。航空支援(空からの爆撃)を要請するが、ルール上、敵の存在を確認できなければ支援を受けることはできない。クラウスは「敵がいることにしろ!」と指示し、何とか窮地を脱する。仲間も一命を取り留めたが、それにより民間人11名が犠牲になってしまう。

そのことが問題視され、クラウスは軍事違反により起訴されてしまう。

罪悪感にさいなまれたクラウスは有罪判決(最大で禁錮4年)を受ける覚悟を決めるが、「残された家族はどうなるの?」と妻に迫られる。葛藤を重ね、ついには弁護士と協議し、無罪を目指す方向で裁判を進めていくが……

という、あらすじだ。

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最終的にどんな判決が下されるかは、作品を観てもらえればと思う。

しかし有罪だろうと無罪だろうと、死んでしまった民間人11名が生き返ることはない。

ただこの出来事を、クラウスという個人の問題だけにフォーカスするのは十分ではないだろう。(クラウスを演じるピルウ・アスベックさんの熱演により、クラウスの心情変化を擬似体験するのももちろん本作の大きな意義ではあるが)

アフガニスタンで、今なお繰り返される紛争。

9.11以降、アメリカを中心に、タリバンと対峙しながら平和維持を目指してきた様々な国の努力があった。もちろん日本も平和維持の支援として多額の金銭を支払っているわけだが、憲法の縛りにより、自衛隊が戦闘活動に関わってはいない。

アフガニスタンにおける平和維持活動は、テロリズムの抑止効果があると考えると、各国の戦闘による恩恵を「フリーライド」していると言えなくもない。

もし憲法が変わり、自衛隊が戦闘行動に向かわせたら(あるいは為政者が憲法の解釈をねじ曲げて、自衛隊を戦闘に向かわせたら)、クラウスのような「憂き目」に遭ったのが日本人だという可能性もあったわけだ。

これはレアケースであり、通常の戦闘行動であれば、民間人を守り、「敵陣」のみを攻撃できたというロジックもあり得るだろう。

だが、これが「戦争のリアル」なのではないだろうか。

戦争のことを殆ど知らないまま、僕は9.11から20年を迎えてしまった。

この作品を観終わって感じたのは、言いようのない恥ずかしさだ。僕らは、歴史を学ばなければならない。