プライベートで幸せになっても、自分の演技は貫ける
コンスタントに仕事のオファーはあったが、コロナ以前の黒澤さんには常に焦りがあった。俳優としての自分に自信が持てず「いったい私はどこにいるんだろう?」と不安に駆られていたという。
黒澤「俳優の評価って、すごく難しいと思うんです。英検みたいに、実力を測るモノサシがあるわけではないので。起用するプロデューサーや監督の評価が絶対というわけでもありません。本当に自分は成長しているんだろうか、仕事を続けていても、積み重ねていけているのか自信が持てなかったんです」
黒澤さんは不安を打ち消すように、仕事以外の何もかもを削ぎ落としていく。
例えば、旅行。撮影やオーディションのスケジュールは突発的に組まれることもあるそう。旅行で仕事ができないなら、旅行をしなければ良い。そんなふうに仕事優先の思考ができていたという。
黒澤「コロナ禍で、当たり前のように優先していた仕事がなくなりました。立ち止まって考える時間があったので、『私はこれから、どうしたいんだろう』と冷静になることができたんです」
最初の緊急事態宣言が明け、少しずつ撮影の仕事も入るようになった。自分自身の演技に対して、客観的になれたと黒澤さんは話す。
黒澤「幸せになれない女性を演じることが多く、プライベートでも幸せになってはいけないんじゃないかと思い込んでいました。もし私が幸せになったら、演技に影響が出てしまうんじゃないかという恐怖心があったんです。
コロナ禍になって1年が経ち、以前仕事したことのある監督と、また仕事をすることになったんです。以前の撮影では、ウェディングドレスを着て恋人と心中するっていう……なかなか不幸なシチュエーションですよね。当日は晴れ渡っていて、すごく綺麗なドレスだったんですけど、ちゃんと不幸な映像が撮れました。
今回もウェディングドレスを着るシーンがありました。やっぱり、ちゃんと不幸な映像が撮れたんです。
コロナもあって落ち着いていたし、破天荒な生活を送っていたわけでもない。『あ、全然大丈夫なんだ私。プライベートで幸せだったとしても、そういう役って、地でできるんだ』って思えました」